池上彰氏のやさしい経済学(ケインズ経済学)を見たが、今はとても反発を感じる。

 「BSテレ東 池上彰のやさしい経済学 ~明日が分かる基礎講座~」を拝見しました。

 古典的な経済学が、ケインズ経済学の登場によって、労働者の報酬を抑制する事に反対し、給与を改善する点や非自発的失業者の辺りまでは「素直にふんふんと」聞いていました。

 しかし、公共投資乗数効果で経済を活性化する点を語る一方で、現在では当然の知識である「公共投資による高度経済成長が終焉した事実と回収見込みのない国債残高」及び「主として社会保障の充実を名目に、歴代政権と比較して数倍の国債を発行する民主党政権の実態」に全く触れず、あまつさえ「乗数効果」を「子ども手当」に無理矢理こじつけるに至っては、「何で民主党政権に都合良い事だけ語っているのか?」と強く不信を感じました。

 何故、普段からジャーナリストである事を主張する池上氏が、事実を隠蔽した講義を行うのでしょうか?

 最近になって特に多発する、子ども手当(及び生活保護)の不正受給には「知らぬ存ぜぬ」を突き通し、大量の公費を育成支援ではなく「保護(子ども手当、全量買取など農業水産保護)」に対して重点投入し、目立った経済効果のないまま未曾有の大量国債を発行し続けています。

 以前までの記事でも再三示した通り、「年間世帯所得金額階級別の(世帯数)相対度数分布」と「統計局ホームページ/日本の統計−4 我が国の人口ピラミッド」を見比べれば、相関関係は一目瞭然です。

 所得は決して均等には分配されず、歴代政府が主張するいわゆる「平均所得」は世情の実態を表していない事が「年間世帯所得金額階級別」資料で明示されており、国民の一般生活に直結する世帯収入平均(上記資料の中央値)は、いわゆる「平均所得」より100万円以上少なくなっています。

 ここで、「経済構成別一般世帯数と親族人員」から、平成17年度における総世帯数は約4,900万世帯(平均世帯人員の2.5を乗じるとおおよその国民数と同等)となっています。つまり、約半数の2,850万世帯の年収は、中央値の448万円以下となっています。

 同時に、政府及び自治体が頻繁に用いる「年齢階層別所得金額」とは裏腹に、上記資料で年収1500万円以上の世帯数が僅か3.1%しか存在しない事実(約152万世帯)と、「年齢各歳別人口」で示される50歳〜60歳の男子人口が約949万人である事実を併せて、国民の所得実態と乖離している事実が極めて明確になっています。

この事実は国税庁が公開する「事業所規模別及び年齢階層別の給与所得者数・給与額」を見ても明らかな通り、年間世帯収入階層による実態を補填する要素として、企業規模別の平均給与の格差が激しい事も、単純な「年齢階層別所得金額」が社会の収入モデル実態と大きく乖離している事を示しています。

 このような状況の中で、「[Wikipedia少子化]」に示される通り、収入の低下と反比例する生活費や教育費の増加により、上記引用のWikipedia内で「日本の少子化の原因」として取り上げられている引用を例にとると

子育てにかかる費用が高いことも要因として指摘されている。国民生活白書によれば子供一人に対し1300万円の養育費がかかるという。但しこの数値は基本的な生活費によるもので、高校や大学への進学費を含めると最低2,100万円はかかるという。経済産業研究所の藤原美貴子は日本人官僚に対するセミナーで「今の日本において、子育ては非常に高くつきます。ですから、子供を作るか、夏用の別荘を買うか、最新モデルのベンツを買うか、という選択を迫られているようなものです。」と説明している。

 とされていますが、上記に引用した「世帯年収階級から見た国民大多数の所得実態」を鑑みれば、

「今の日本において、子育ては非常に高くつきます。ですから、せいぜい高卒程度の学歴を持つ子供を1〜3人作るか、大卒学歴の子供を1人だけ作るか、自宅を買うか、旅行やレジャーに興じたり高級車を買うか、という選択を迫られているようなもの

と言い換えても差支えのない状況であると考えられるため、社会全体で少子化が加速される経済的な事情を抱えています。

 上記資料で年間世帯収入中央値の「448万円」では、自宅通学による国公立大学卒業を想定したと思われる「最低2,100万円」でさえ、約4.7年分の年収に相当してしまいます。ましてや、家計支出抑制が困難な毎月の定額仕送りや、医学部などの高額な学費負担は不可能と言っても良く、一般的な自宅購入価格を突破するような学費負担が不可能な事が自明の理となります。
 したがって、公立高校(中学)卒で良いから子沢山(非常に家計が苦しい)とかは減少するし、反比例するように子作りを諦める世帯が続出するのは当然の社会現象でしょう。

 上記の少子化の現状を背景に、国民の嗜好が多様化して「旅行やレジャーに興じたり高級車を買う=総じて趣味分野への投資」率が高まっている事、第1次・第2次ベビブーム時代と比較して、僅か1〜2年ほどの年収で対応可能な年間世帯収入1000万円以上の世帯数が世帯数全体の12%しかない状況とあわせ、少子化進行は更に加速が予想されます。

 つまり、高学歴社会を見据えた将来の大学全入時代を迎えると、年間世帯収入状況が改善されない限り、総世帯数の半数以上を占める低所得世帯を中心に、子作りを諦める世帯が更に増えるのは理の当然とも言えますし、定員割れの拡大から各大学の破綻が広がる事も予想されます。

 ケインズ経済学の理論の是非は有識者に譲るとして、上記の少子化が進行する状況で確実に国債を返済するのはかなり困難であり、長期的な予測資料で、平成87年に昭和20年レベルまで半減する国民数では、現在のGDP維持が困難な事が確実視されます。

 かつてのイギリス型(ゆりかごから墓場まで)や、スウェーデン型の高福祉(保護)政策は、裏付けとなる税収が追い付かず何れも破綻しましたが、民主党政権が採用した高保護政策で歴代政権の数倍まで増加した国債発行額も、(裏付けとなる税収不足と少子化進行により)他国同様に長期間維持する事は確実に不可能でしょう。

 そう言った根拠で、池上氏の経済学講義姿勢には、今日の放送で拒否感及び反感以外を感じるものはありません。

  1. 年間世帯収入階層別世帯数の中央値を、いわゆる中流階級の年収800万円以上に向上させるか
  2. 現在の年間世帯収入モデルを維持したまま、全体的な消費者物価の半減を行うか
    • 給与収入世帯の所得上限を1000万円までする施策などで、企業の給与負担を軽減して投資意欲向上と製品物価の半減を行う
    • 連動して公務員給与の上限を1000万円として大学運営経費削減に基く学費の半減
    • 農業保護を農業起業へ方針転換して企業化し、農家個々人への保護を全廃する
    • など通じて、全所得階層で、可処分所得の増加と、子作りが容易な社会環境へ持ち込む
    • だが現実には、前項同様に各ステークホルダー間の抵抗も大きく早期の実現は絶望的

 池上氏におかれては、政権にとって都合の良い夢物語でなく、非常に悪化した年間世帯収入階層別所得状況を改善するための、現実策をご提案して頂きたいと思います。